大学受験で頭がいっぱいになっている人に多いのが「受験に関係のない科目なんて学んでも無駄」という極端なかんがえかた。
図画工作(芸術・美術)、音楽、保健体育ならそれぞれ、美大、音大、体育大などの専門分野の大学が多数ありますが、家庭科の場合は受験に必要になるとしてもせいぜい教育学部の家庭科教育コースぐらいで、副教科の中でもとりわけ居場所のない科目と言えます。
また、料理や裁縫などの知識は今やネットでも簡単に調べることができるので、「わざわざ家庭科の授業を学校でしなくてもいいのでは?」と考えている人は、学生だけでなく大人でも多いことでしょう。
しかし、家庭科は料理や裁縫といった知識の他にも、自分の生活や健康に関わる知識、そしてお金にまつわる知識を学べるという、学校でも数少ない自分の生活や利益に直結する科目でもあります。
知っておくべき家庭科で学ぶ事柄
食品の扱い方、食品衛生に関する知識
家庭科といえば調理実習で美味しい料理を作って食べるだけ…の時間ではありません。
食品の扱い方であったり、食中毒が発生しやすい状態、寄生虫に関する知識、生肉の扱い方、お米のとぎ方、食費の腐敗を防ぐ方法などの、食品を美味しく食べるだけでなく自分の健康を守るための食の知識を学べる科目です。
日本のように衛生面が高く、食品の安全性や品質が保証されている生活が当たり前だからこそ、これらの知識を何も学ばず学校を卒業してしまうのは危険です。
ちなみに、学校を卒業した今でも、豚肉にしっかり火を通さないと寄生虫(旋毛虫)のせいで発熱や筋肉痛になる恐れがあるという知識は、生活の中で役にたっていると実感しています。
栄養・カロリーに関する知識
普段食べている食品は全てカロリーや栄養が詰まっていますが、どの栄養が体に対してどんな働きをするのかという知識を学べるのは家庭科の魅力です。
例えば体育会系の部活で筋肉を増強させたい場合は、筋肉の元になるタンパク質を多く摂取するという知識も家庭科で学ぶことができます。
ビタミンやミネラルなどの微量栄養素に関する知識を知っておけば、「最近疲れが抜けていないからビタミンB群が足りてなんちゃうかな?」という考えができて、ビタミンB群が多く含まれている豚肉料理を食べたり、サプリメントを摂取し健康管理をすることができます。
また、巷にあふれる本当に効果があるかどうか疑わしいダイエット食品に騙されないためにも、栄養やカロリーに関する知識を身につけて置くのは効果的です。
簡単な裁縫の技術
- シャツのボタンが取れた
- ファスナーが壊れて取り替えなければいけない
- ズボンの裾上げをしたい
などの、普段の生活をしていれば出てくる衣服の悩みも、家庭科で学んだ基本的な裁縫の知識やミシンの使い方を知っていれば、自分で対処することができます。
ちょっとした衣服での困り事が出た時も裁縫の知識で乗り越えれば、わざわざ新しい服に買い換えなくても済むので、家計の節約にもなります。
針と糸なら百均でも売っているので、とくに一人暮らしの人ほどもしもの時に備えて常備しておくのがいいでしょう。
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悪徳商法
家庭科でもとくに学んでおいて欲しいのが、悪徳商法に関する知識です。
学生のうちは悪徳商法をする人とはあまり出会わないものですが、社会人になると
- マルチ商法
- ねずみ講
- ネットワークビジネス
- MLM
などの人間関係を現金化する胡散臭いビジネスに出会ったり、ネット上で持ちかけられる事があります。
「不労所得」「空いた時間で簡単に稼げる」「副業にピッタリ」「秒速で稼げる」などのあらゆる甘い言葉で人を誘惑し、その人の人生だけでなく人間関係までもぶち壊すビジネスに関して触れられるのは家庭科の魅力だと思います。
…とは言え、現実は家庭科の勉強を聞いていなかったのかマルチ商法騙される若者は多いのも実情。
売る側もマルチ商法だと分からせないために、あらゆる対策を練ってカモフラージュを施して商売の仕方を変えています。
これらの背景があってもなお、持ちかけられた儲け話に対して「なんかマルチくさくねえか?」と疑える目を持つ意味では、悪徳商法を家庭科で学んでおくに越したことはないと思います。
クーリングオフ制度
悪徳商法と一緒に覚えておきたいのが「クーリングオフ制度」に関する知識。
実際にクーリングオフ制度を利用して自分が買わされた商品を返品した経験こそありませんが、一度買った品物でも期限内であれば契約を解除できる仕組みがある事を知っておけば、詐欺、訪問販売、マルチ商法の被害にあった時に役に立ちます。
胡散臭い商品を売りつけてくる人は買わせる人の無知に付け込んでくるのが基本なので、そういった質の悪い人から自衛する知識として、家庭科の知識は役に立つのです。
クレジットカード・ローン・利息に関する知識
今や某クレジットカードマンのCMなどの影響もあってか、クレジットカードが形の変えた借金だということを理解している人は、果たしてどれだけいるのだろうか…と感じることがよくあります。
家庭科では、クレジットカードの危険性、とくに分割・リボ払いによって手数料がいくらかかるか、そして一括で払うとき比べてどれだけ余分なお金を払うかというシミュレーションをする授業があり、その授業は社会人になった今でも役立っていると実感しています。
また、家や車を買うときのローンや借金の利息など、元本の他に掛かるお金を計算する…いわゆる複利計算の知識も家庭科で学んで今でも使える知識のひとつだと感じています。
なお、複利計算は数学の数列。指数関数でも学べる知識です。
数列や指数関数が役に立たないと感じている人は、知らないうちに高い金利で物を買ったり、利息の返済に追われて元本が全然減っていないという状況に陥ってはじめて、自分の不勉強さを実感するかもしれません。
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余談:昔の男子は中学高校で家庭科を習っていない時代もあった。
普段年配の方と話しているとよく聞くのが「俺が中学・高校の頃は家庭科の授業なんて受けていなかった」というエピソード。
実際に第二次世界大戦後の家庭科に関する変遷を調べていくと、小学校では男女ともに5・6年生は必修でしたが、中学校では
- 1962~1980年までは、「技術・家庭」という科目になり、女子は家庭科、男子は技術を必修。
- 1981年からは男女ともに技術。家庭科を習う指導要領に変更。
- 1993年からは履修内容に男女による差がなくなり統一化。
という歴史があります。
また高校では、1994年から男女ともに必修になったという歴史もあり、年配の男性だと家庭科を習ったのは小学校の時だと、という人もいるのです。
家庭科が男女ともに必修化になった背景は、男性の家事や育児への参加が求められる時代になった、技術科で習う知識や技術が時代に則さないものになった、などの時代背景があるとされています。
…昔は男子厨房に入らず、という言葉があったように、家事や育児や女性の仕事であり男性は外に出て働いておけばいいんだという時代もありましたが、共働きが当たり前であり、そして一人暮らしのまま暮らすという生き方も広まっています。
こうした移り変わりを見ると、意外にも家庭科の知識は「自分は受験なんて関係ないから…」と考えている人にとっては、一生ものの知識となり役に立つ授業だと思えてくる次第です。